2012-02-14 Tuesday |
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ベルシステム24グループユニオンニュース |
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買収資金を肩代わりさせ、社員削減で返済 名門ファンドの呆れた投資戦略の実態
「是非、(希望退職に)応募して下さい。
特に、あなたは」――町田 徹
町田徹「ニュースの深層」
(まちだ・てつ) 経済ジャーナリスト。1960年大阪府生まれ。日本経済新聞社に入社後、独立。2007年3月、月刊現代 2006年2月号「日興コーディアル証券『封印されたスキャンダル』」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を受賞した。現在、甲南大学経済学部非常勤講師も務める。
ベインキャピタルという投資ファンドをご存じだろうか。
米国では、あのマッキンゼー・アンド・カンパニーなどと並び称される名門コンサルティング会社「ベイン・アンド・カンパニー」の系列で、7兆円という巨額の資金を運用する大手ファンドだ。サーティワンのブランドでアイスクリーム店をチェーン展開するバスキン・ロビンスなどへの投資でも知られた存在という。
2006年に開設された日本事務所のホームページを見ても、「単なる資本の提供にとどまらない中長期的視点での戦略立案・実行支援により真の企業進化を実現します」と仰々しく連ねている。
しかし、ベインキャピタルが傘下に収めた「ベルシステム24」というコールセンター事業大手の例を取材したところ、こうした美辞麗句とは程遠い実態が浮かび上がってきた。
買収対象に買収資金を借り入れさせた挙句、これといった成長戦略を提示できず、"指名解雇"紛いの人員カットによる経費削減で、借金の返済資金を賄おうとしているというのである。
今回は、ハゲタカを地で行くような米国系の投資ファンドのビジネスの知られざる実態をレポートしたい。
1982年創業のコールセンター業の老舗「ベルシステム24」(本社・渋谷区)が、ベインキャピタル傘下の投資目的会社「BCJ-4」の公開買い付けに賛同すると発表したのは、昨年11月19日のことだ。
そもそもベルシステム24は、1986年に、資本参加を受けて、創業者経営者の大川功氏が率いていたCSKグループに入った。そして、1997年に東京証券取引所第2部に上場するなど順調に成長。2004年に、ソフトバンクと包括業務提携に踏み切り、同社のテレホンセンターを運用するBBコールの株式を全株取得して子会社化した。
ソフトバンクにとって、この案件は、英ボーダフォンからボーダフォン・ジャパンを買収するために必要だった資金を調達するための金融取引だったことから、金融関係者の話題になった取引でもあった。当時のベルシステム24は、役員の派遣問題などを巡って、大川氏亡き後のCSKと対立する関係になっており、同グループからの離脱を模索していた。
このとき、ベルシステム24が行った第3者割当増資を引き受けることによってBBコールの買収資金を提供しただけでなく、CSKが保有していたベルシステム24株の買い取りや同株式の公開買い付けなども次々と断行し、ベルシステム24の新たな親会社に収まったのは、日興コーディアル証券グループだった。
ちなみに、筆者は、後に休刊する月刊誌「現代」の2006年2月号で、日興コーディアルグループの粉飾決算疑惑を指摘した。日興は孫会社「日興プリンシパル・インベストメント」を通じてベルシステム24を買収しながら、これを連結対象としなかったにもかかわらず、含み益だけを本体の連結決算に取り込むという不適正な決算処理を行っていた。
ベルシステム24の社員たちの運命の流転はここから始まったと言ってよいだろう。日興が粉飾決算の訂正に伴い、会社としての信用を失い、米シティグループに身売りすると、ベルシステム24の経営権もシティに移ったのだった。
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そして、リーマン・ショックに象徴された米国発の経済・金融危機の直撃を受けたシティグループのシティグループ・キャピタル・パートナーズ(旧日興プリンシパル・インベストメント)が、保有していたベルシステム24の発行済み株式総数の93.49%にあたる株式の売却・換金を希望したため、ベインキャピタルが買収に名乗りをあげることになったというのである。
ただ、金融界では「ベインキャピタルのベルシステム24買収は高値掴みだった」(M&Aの仲介実績が豊富な米国系証券会社)と冷ややかに分析する向きが多い。中には、「日本市場の環境も考えず、手掛けた案件、実績作りに拘って、無理な買収を試みたことが仇になったと見るべき」(米系コンサルティング会社)といった見方もある。
不良債権問題の嵐が吹き荒れて、貸し剥がしが横行したため、経営の継続を断念して会社の売却を希望する企業が続出する中で、投資ファンドの進出や創設が相次いだ2000年代初頭と、昨今の日本市場は大きく異なっている。ある程度、経済が落ち着いてきたため、売却希望案件数が激減したため、以前のように、企業を買い叩くことは、難しい状況になっている。
前述のようにベインキャピタルは2006年に日本事務所を設置した後発組のファンドである。米国での名声がどんなに高かろうと、こうした日本市場での実績が乏しいファンドにとって、企業を安い値段で買い叩いて入手し、短期間に簡単なリストラクチャリングを施して、高く売り抜けることが可能な案件を発掘するのは容易でないというのである。
それでも買収を強行したことのツケ、つまり高値掴みがの一端が垣間見える部分もある。前述の昨年11月19日付のプレス・リリースによると、2009年2月期のベルシステム24の連滅ベースの売上高は1157億円、経常利益は137億円に過ぎないのに、公開買い付けに999億円の資金を投入するという方針を明らかにしている。
業績や資金調達の詳細について、同社広報室の高場正能室長は「当社は非上場企業でもあり、開示できない」としている。
背負い込まされた700億円の借り入れ
しかし、別の同社幹部によると、「ベルシステム24は、複数のLBO(レバレッジドバイアウト)ファンドを組成させられて、合計約700億円の借り入れを背負い込まされた」と言うのだ。
この幹部は、「(先述したように買収の際の特殊事情があって、2015年ごろまでは)ソフトバンクが巨額の手数料を支払ってくれるBBコールを子会社として保有しているので、なんとか、こうした借り入れができたが、実力から言えば、借り入れの規模は過大で無理がある」と断言する。
ちなみに、BBコールを除いたベルシステム24単体の収益力は「売上高が700億円程度、経常利益が30億円程度が実力」らしい。買収先の企業の資産やキャッシュフローを事実上の担保にして、買収資金を調達するLBOファンドを、しかも、これほど巨額のLBOファンドを組成させられたことは、後述するように、ベルシステム24や同グループの従業員に重くのしかかっていくことになる。
LBOファンドの借り入れは、運転資金の借り入れ枠の設置も含めて3本立てとなっており、5年かけて後年度になるほど元利返済が多くなるものと、5年後に一括返済するもの(5年後に、借り換えで対応する皮算用?)、そして枠だけのものの3種類になっているという。平均の金利は年5.0%程度で、利払いだけでも年間35億円あまりが必要になる計算だ。
一方のベインキャピタルは、ベルシステム24にこのLBOファンドを組成させたことにより、自己資金による投資を約200億円に抑えることに成功した。それで、シティの「1000億円強で売却したい」という希望との折り合いをつけることができたというのである。
ちなみに、「シティの方は、なかなかのしっかり者だった」と明かすのは、売却のアドバイザーについた米ゴールドマン・サックスの関係者だ。別の情報源からは、シティは、ベルシステム24売却の直前に、同社に200億円前後の特別配当を実行させて、この資金もちゃっかり懐に入れたと聞く。
繰り返すが、当のベルシステム24にとって、こうしたLBOファンドの組成で背負わされた借入金の返済は、決して軽い負担とは言えない。
さらに、ベインキャピタルから派遣された経営陣や、新たに採用されて派遣されてきた管理職の面々にも、クライアント企業からアウトソースされるコールセンター業務が中心のベルシステム24グループの業務に精通し、収益を短期間に劇的に改善するノウハウを持つ専門家は一人もいないという。
こうした中で、新経営陣が、元利の返済を控えて、資金調達のために依存するのはリストラクチャリングしかない。これこそ、ビジネス実務の経験の乏しい、米国型のビジネススクールのMBA(経営学修士号)保有者たちが考えそうなステレオタイプの手法である。
中でも重点が置かれているのが、人件費の削減だ。
筆者が入手した管理会計上の経営計画書によると、直接費・間接費をあわせて正社員の人件費は10月が約9億5000万円だったが、これを11月には9000万円少ない8億6000万円に減らす予定になっている。
「あなたに次のポストを用意できない」
この人件費減らしのために、ベルシステム24は一体何をやったのか。その点を取材すると、人を人として扱わない投資ファンドの実態が浮かび上がってきた。
まず、会社側の言い分を紹介しよう。実は、ベルシステム24は10月末付で問題の人員削減を実施したのだが、これについて、前述の広報室の高場室長、は筆者の取材に対して「戦略的な営業力を身につけないままに、組織が肥大化した。このままだと赤字になってもおかしくない。筋肉質な体質作りを目指して、希望退職を実施した。8月24日に2000名弱に対して、相応の条件で、200人の募集を行うことを公表した」と説明した。
ベルシステム24がグループをあげて、8月24日朝、臨時の朝礼を開き、希望退職を行う方針を社員に明らかにしたことは事実である。
しかし、筆者が取材した正社員たちの証言と、筆者の手元にあるベルシステム24の社内資料はそろって、この人員削減が通常の「希望退職」と言えるようなものか疑問を呈する内容となっている。「退職勧奨」が横行し、退職の強要と受け取れるような発言も存在したというからだ。
例えば、首都圏で勤務する40歳代後半の男性社員Aさんは、「件の臨時朝礼の翌朝に面談のスケジュールを渡され、すぐ、その日の午後に面談が設けられた」と振り返る。
面談の相手は、日頃接触のない何階級も上位の上司だったという。そして、「いきなり、退職勧奨の話があった。家族と相談したいでしょうが、人事はあなたに次のポストを用意できない。状況をよく考えてほしいと言い渡された」「今までの人事評価が今回の提案に繋がっていると考えていただいていいと宣告された」と言うのである。
そして、(1)再就職支援会社「ライトマネジメント・ジャパン」のパンフレット、(2)その説明会の日程表、(3)特別(割増)退職金の説明書――の3つを手渡されたそうだ。
次いで、2度目の面談にAさんが呼ばれたのは9月7日のこと。1回目の話に加えて、「以前の君の上司に言われており、なるべくやさしく説明しているが、実態は厳しい。今日中に、ネクストキャリアプランの募集を打ち切る可能性がある。そうなると、再就職の支援も割増退職金も受けられない。明日だと保証できないので、今夜12時までに結論を出す必要がある」と、その夜のうちに決断を下すように迫られた。
そして、翌8日には、翌朝9時で募集を打ち切るとの全社員向けのメールが届き、どうしていいかわからずに焦っているところへ、労働組合から「ベルシステム24としての初めての組合を結成した。迷っている人は退職勧奨に応じない方がいい」という趣旨が伝えられ、ようやく「勇気づけられて、落ち着いた」そうだ。
不可解だったのは、9月16日に行われた3回目の面談だ。「答えを聞きに来た。(締め切ったはずのプランの適用を受けられる)最後のチャンスですよ。あなたにはプランが合っている」と威圧的に切り出されたからである。
そこで、Aさんが労働組合に加入した事実を告げると、幹部はニヤッと笑い、「会社に残られても今後の仕事はないですよ」と捨て台詞を残して立ち去ったそうだ。
取材の最後に、Aさんが「ほとんどの人が思考を停止して辞めてしまった。会社はやりたい放題で、労働者と対等とは言えない」と悲しそうにつぶやいたのは印象的だった。
その後、Aさんは、「退職を勧められたにもかかわらず、会社に残る道を選んだ同僚たちが、4ヵ月程度の長期出張の名目で、北海道や九州にどんどん左遷されている。自分もいつ飛ばされるかわからない」と不安そうなメールを送ってきた。
「希望退職」の実態
関西地区で約10年の勤続経験のある女性社員のBさんも、臨時朝礼の翌日にあたる8月25日に、関西地区の支店長から呼び出されて、「是非、応募して下さい。特に、あなたは」と言い渡された一人である。
大阪・梅田のホテルのロビー喫茶で取材に応じたBさんは、「9月8日には2度目の呼び出しがあり、『すでに締め切ったが、ここに("希望退職"プランの)予約シートがあるので、すぐに記入してほしい。今後のことは保証できない。今の仕事も続けて貰うわけにはいかない』と脅かされた」と振り返った。
「『いったい何をやっていたのかと思うほど評価が低い』と言われ、これはパワ・ハラではないのかと感じた」という。
彼女は明確にノーの意思を表明したが、この支店長は9月半ばになって、再び「前回は中途半端に終わってしまったので」と電話を寄越し、「『どうするのか』と問い詰められて、うんざりした」と話す。気丈なBさんは、今も会社に残っているが、彼女の部署ではおよそ3割の社員が退職を迫られ、ほぼ全員が会社を去ったという。
AさんやBさん、そして他の多くの事実上の退職勧奨を受けた社員たちに共通しているのは、ベルシステム24の正社員の人事評価(S、A、B、C、D、Eの6段階評価)のうち比較的低位のC、Dランクに属する人たちが、退職を促す面談の対象として、2度、3度と繰り返し呼び出されていることだ。
筆者が入手した様々な社内文書のうち、人事総務室長が全社員に希望退職の実施を伝えたメールや、全社員向けの資料「ネクストキャリアプランの実施について」では、同社の人員削減策をあくまでも「希望退職」と称して、対象を、新入社員を除く正社員としている。
しかし、退職勧奨を担当した幹部たちに配布された「ネクストキャリアプラン個人面談マニュアル」や「研修資料」「面接スクリプト」「ネクストキャリアプランFAQ」などの社内文書によると、人事評価でSやAの社員は対象外として応募があっても引きとめるように明記してある。一方、Bクラスはケースバイケースの判断となっている。
そのうえで、事実上、C、Dクラスだけを対象にする方針をはっきりと書いてあるのだ。その際、「問題なのは、強制、脅迫により応募させること」であり、「あなたは辞めるしかない」と迫ったり、「会社に居続けた場合、どうなるか判るだろうな!」などといった対応の自粛を求めたりしている半面、「読み上げ調にならないように『厳しい情勢下で、あなたの職務はなくなることになりました、他部署での受け入れも難しく、是非、応募を考えて下さい』と口に出して練習しておくように」と指示しているほどなのだ。 さらに、ベルシステム24内部では、C、Dランクの退職勧奨を優先するために、人事評価ランクごとの応募状況のリストアップもしていた。そうしたリストも筆者の手もとに寄せられている。これらを見ると、同社の行った人員削減策は、同社が言う「希望退職」にはほど遠い。むしろ、「退職勧奨」が多く、中には「指名解雇」に近いものがあったと考えた方が自然である。 ベルシステム24は10月末に人員削減を断行し、303人の正社員が退社した。筆者の手元には、その個人名を記したリストもある。そして、同社内部の噂では、会社が退職させたかったC、Dランクの社員200人(当初の募集人員)のうち、実際に退社に応じたのは150人程度。残り約150人のうちの多くは、会社の慰留に逆らって退職したS、Aランクの社員とみられている。この点の詳細の開示についても、高場広報室室長は「希望退職は募集数を充足したとしか申し上げられない」と回答を拒んでいる。 黒字なのに人員カット 日本の労働法規は、企業が解雇を行う際に、「整理・解雇の4要件」(人員整理の必要性、解雇回避努力義務、被解雇者選定の合理性。手続きの妥当性)を満たすことを求めている。例えば、整理の必要性では、会社が存亡の危機に瀕しているような状況が必要とされる。役員報酬などのカットなどもそうした前提条件のひとつである。 ところが、前述のように、ベルシステム24は、連結ベースで立派に黒字を出している。日本の一般的な慣行に従えば、人員削減には相当慎重であるべき状況だ。しかも、ベインキャピタルが強引な買収を仕掛けて、ベルシステム24に買収資金の借り入れを肩代わりさせなければ、このような人員カットも不要だったはずである。 こうみてくると、今回のベルシステム24の対応が、いかに乱暴かが容易に理解できるはずである。今回、退職した社員で、実際に会社が用意したプランで、再就職の紹介を受けることができた人は非常に少なかったとみられる。家族を養う立場の社員たちが職を失い、路頭に迷っている可能性が高い。 逆に、もし仮に、今回の人員削減を希望退職と認めるとしても、(容易に認められるとは思えないが、)その場合でさえ、対象者を事実上、C、Dに絞り、S、Aを除外していたことを最初に伏せていた点など、会社の説明の不備は明らかだ。 さらに言えば、ベルシステム24では、同じ時期に再就職の支援プランなしで正社員の退職者を募集したグループ会社もあった。このほか、派遣社員の雇い止めや、アルバイトの賃金引き下げなども頻発している模様だ。
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